
遺言書があれば、すべてそのとおりになるの?

親が“全財産を長男に”と遺言に書いていたら、他の子は何ももらえない?
遺留分って聞いたことはあるけど、正直よく分からない…

相続のご相談で、とても多いのが「遺留分」に関する不安です。
遺留分は、
・相続人を守るための制度
・でも、仕組みが少し難しい
・知らないまま放置すると、後で大きなトラブルになりやすい
という特徴があります。
この記事では、遺留分について
- 遺留分とは何か
- 誰に、どれくらい認められるのか
- 遺言があっても主張できる理由
- 実際の数字を使った具体例
- 請求の流れと注意点
- トラブルを防ぐための考え方
を、専門用語をできるだけ使わずに、順番に解説します。
遺留分とは?まずは一言で説明します
遺留分とは、
法律で定められた「相続人が最低限もらえる取り分」のことです。
つまり、
- 遺言書があっても
- 生前贈与があっても
一定の相続人については、「これだけは確保しなさい」という最低ラインが決められています。
これは、「遺言の内容によって、家族が極端に不利にならないようにするため」の制度です。
遺留分がある人・ない人
遺留分は、すべての相続人にあるわけではありません。
遺留分がある人
- 配偶者
- 子ども(実子・養子)
- 親(直系尊属)
遺留分がない人
- 兄弟姉妹
この点は、初心者の方がとても誤解しやすいポイントです。
「兄弟だから遺留分があるはず」
→ 実は、兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分は「どれくらい」もらえるの?
遺留分は、法定相続分の「半分」または「3分の1」です。
具体的には
- 配偶者・子どもがいる場合
→ 遺留分は「法定相続分の全体の2分の1」 - 親(直系尊属)だけが相続人の場合
→ 遺留分は「法定相続分の全体の3分の1」
※兄弟姉妹のみの場合は、遺留分そのものがありません。
遺留分を具体例で見てみましょう
【例1】配偶者と子ども2人が相続人の場合
- 相続財産:3,000万円
- 相続人:配偶者+子2人
この場合、の法定相続分は以下のとおりです。
- 配偶者(財産全体の1/2)
3,000万円✖️1/2=1,500万円 - 子ども2人(財産全体の1/2)
3,000万円✖️1/2=1,500万円
1,500万円✖️1/2(2人分を1人分に分ける)=750万円/1人
そして、この法定相続分の金額から、遺留分を計算します。
配偶者と子どもの遺留分はそれぞれ1/2ですので、以下のようになります。
- 配偶者(法定相続分の1/2)
1,500万円✖️1/2=750万円 - 子ども2人(法定相続分の1/2)
750万円/1人✖️1/2=350万円/1人
たとえ遺言で「すべて長男に相続させる」と書かれていても、配偶者や次男は、この遺留分を主張できる法的権利があります。
【例2】親だけが相続人の場合
- 相続財産:1,500万円
- 相続人:父のみ
この場合、の法定相続分は以下のとおりです。
- 父:直系尊属
1,500万円
この場合は、他に相続人がおらず、父1人のため、相続財産がそのまま法定相続分になります。
そして、この法定相続分の金額から、遺留分を計算します。
父である直系尊属の遺留分は1/3ですので、遺留分は以下のとおりとなります。
- 父:直系尊属
1,500万円✖️1/3=500万円
父は、最低でも500万円分は確保できる、ということになります。
遺言があっても、なぜ遺留分は守られるの?

ここで、よくある疑問です。

遺言は本人の意思なのに、なぜ覆されるの?
遺留分制度の背景には、
- 家族の生活を守る
- 一方的な排除を防ぐ
- 相続をきっかけに生活が破綻するのを防ぐ
という考え方があります。
つまり、
遺言の自由と、家族の生活保障のバランスを取るため
の制度だと考えていただくと分かりやすいです。
遺留分を侵害されたら、どうすればいい?
もし、
- 遺言によってほとんど何ももらえなかった
- 生前贈与で財産が一部の人に集中していた
という場合、
「遺留分侵害額請求」 を行うことができます。
(以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていました)
遺留分侵害額請求の流れ
いきなり裁判、というわけではありません。
- 相手に連絡する
- 遺留分が侵害されていることを伝える
ことから始まります。
話し合いが難しい場合は、「遺留分侵害額請求をします」という意思表示を、内容証明郵便で行うことが多いです。
金額や支払い方法について話し合います。
話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所での手続きに進むこともあります。
遺留分侵害額請求には「期限」があります
遺留分侵害額請求には、以下のとおり期限があります。
- 相続があったこと、及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを、知ったときから 1年
- 相続開始から 10年
この期限を過ぎると、原則として請求できなくなります。
「そのうち考えよう」と放置してしまうと、取り返しがつかなくなることもあるため注意が必要です。
遺留分が原因でトラブルになりやすいケース
実務でよくあるのは、次のようなケースです。
- 特定の子どもだけに不動産を集中させた
- 再婚家庭で、前妻の子と後妻が対立
- 生前贈与が多く、財産の全体像が見えない
- 「感情」の問題が絡んで冷静な話し合いができない
遺留分は、お金の問題であると同時に、感情の問題でもあります。
遺留分トラブルを防ぐためにできること

〜「あとから揉めない相続」にするための考え方〜
遺留分のトラブルは、相続が始まってから突然起きるものではありません。
多くの場合、原因は次のどちらかです。
- 遺言を書くときに、遺留分を意識していなかった
- 相続人側が、遺留分という制度を知らなかった
つまり、「事前に知っていれば防げたトラブル」が非常に多いのです。
ここでは、
「遺言を書く側」と「相続人になる側」
それぞれの立場で、できることを分けて説明します。
【① 遺言を書く側】ができること
まず「誰に遺留分があるのか」を知る
遺留分は、すべての相続人にあるわけではありません。
- 配偶者 → ある
- 子ども → ある
- 親 → ある
- 兄弟姉妹 → ない
この基本を知らずに遺言を書くと、
「兄弟だから大丈夫だと思っていた」
「子どもには何も残さなくていいと思っていた」
という思い込みが、後のトラブルにつながります。
「全部○○に相続させる」という書き方は慎重に
特定の人に多く残したい気持ちがある場合でも、
- 全財産を一人に集中させる
- 他の相続人を完全に排除する
という遺言は、遺留分トラブルが起きやすい典型例です。
結果として、
- 相続人から遺留分侵害額請求をされる
- 家族関係が一気に悪化する
というケースが少なくありません。
「付言事項」で理由や想いをきちんと伝える
遺留分トラブルの多くは、金額そのものよりも「気持ちの問題」が原因です。
たとえば、
- なぜ長男に多くしたのか
- なぜ不動産を特定の人に任せたのか
- 他の相続人を軽視しているわけではないこと
こうしたことを、付言事項でやさしく説明するだけで、
「理由が分かったから納得できた」
「争う気持ちがなくなった」
というケースは本当に多いです。
生前贈与と遺言のバランスを考える
生前贈与も、遺留分トラブルの原因になりやすいポイントです。
- 特定の子だけに多額の贈与をしていた
- 不動産を生前に名義変更していた
こうした場合、
「遺言では公平に見えても、実際は遺留分を侵害していた」
ということが起こります。
生前贈与をしている場合は、遺留分との関係を必ずチェックすることが重要です。
【② 相続人になる側】ができること
「自分に遺留分があるか」をまず確認する
遺言を見て、
「ほとんど何ももらえない…」
と感じたときでも、すぐに諦める必要はありません。
- 自分は配偶者か
- 子どもか
- 親か
を確認し、遺留分の対象かどうかを冷静に整理することが第一歩です。
感情だけで動かず、まずは情報整理
相続は感情が強く動きやすい場面ですが、
- いきなり相手を責める
- すぐに裁判を考える
のは、あまりおすすめできません。
まずは、
- 相続財産はいくらあるのか
- 生前贈与はどの程度あったのか
- 遺留分はいくらになるのか
を整理することで、「冷静な話し合い」ができる土台ができます。
請求期限を意識する
遺留分侵害額請求には期限があります。
- 相続があったこと、及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを、知ったときから1年
- 相続開始から10年
「少し落ち着いてから考えよう」と思っているうちに、権利そのものが消えてしまうこともあるため注意が必要です。
行政書士に相談すると何ができる?
〜「争う前」に力を発揮する専門家〜
「遺留分の相談って、弁護士じゃないの?」
そう思われる方も多いですが、実は行政書士が活躍できる場面はとても多くあります。
特に、トラブルになる前・初期段階では、行政書士の役割はとても重要です。
遺留分があるかどうかを分かりやすく整理してもらえる
遺留分の判断は、
- 相続人は誰か
- 法定相続分はどうなるか
- 財産の全体像はどうなっているか
を整理しないと分かりません。
行政書士は、
「あなたの場合、遺留分はあります/ありません」
「金額の目安はこのくらいです」
と、専門用語を使わずに説明できます。
相続関係・財産関係を一緒に整理できる
遺留分の話は、必ず
- 相続関係説明図
- 法定相続情報一覧図
- 財産目録
とセットになります。
行政書士に相談すれば、
- 誰が相続人か
- 財産が何にどれくらいあるか
を、書面として見える形にして整理できます。
これだけで、「状況が分からなくて不安」という気持ちは、かなり軽くなります。
遺言を書く側への「予防的アドバイス」ができる
行政書士は、
「争いを防ぐ遺言」を作るサポートが得意です。
- 遺留分を考慮した分け方
- 付言事項の書き方
- 表現の調整
- 公正証書遺言の活用
などを通じて、「法律的にも、感情的にも、揉めにくい遺言」を一緒に考えることができます。
感情的な対立を避ける“ワンクッション役”になれる
相続では、
- 本人同士だと話しにくい
- 感情が先に立ってしまう
という場面が多くあります。
行政書士が間に入ることで、
- 法律の話として整理できる
- 冷静な話し合いがしやすくなる
というメリットがあります。
必要に応じて弁護士につなぐこともできる
もし、
- 話し合いがどうしてもまとまらない
- 裁判手続きが必要になった
場合には、弁護士と連携して進めることも可能です。
「最初から弁護士に行くのはハードルが高い…」という方にとって、行政書士は相談の入り口として、とても頼りやすい存在です。
まとめ
最後に、ポイントを整理します。
- 遺留分は、相続人を守るための最低限の取り分
- 配偶者・子・親に認められる
- 兄弟姉妹には遺留分はない
- 遺言があっても主張できる
- 請求には期限がある
- 感情的な対立に発展しやすい分野
相続は、
「知らなかった」
「よく分からなかった」
という理由だけで、大きな不利益を受けてしまうことがあります。
もし、
- 自分に遺留分があるのか分からない
- 遺言の内容が不公平に感じる
- 将来、家族が揉めないか心配
という不安があれば、早めに専門家へ相談することが、結果的に一番の近道です。
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