
遺言書を書きたいけれど、
・子どもたちに伝えたい思いがある
・なぜこの分け方にしたのか、きちんと説明しておきたい

でも、どう書けばいいのか分からないし、書き方を間違えてトラブルにならないか不安…

そんなときに、とても役に立つのが**「付言事項(ふげんじこう)」**です。
この記事では、
- 付言事項とは何か
- 書くとどんな効果があるのか
- 書いていいこと・書かない方がいいこと
- 実際に使える「付言の文例」
- 行政書士に相談するときのイメージ
を、初心者の方にもわかりやすく・やさしい言葉でお伝えしていきます。
付言事項(付言)って何ですか?
まず、いちばん気になるところから。
付言事項(付言)とは、遺言書の最後などに書く「自由記載のメッセージ部分」のことです。
法律で決められた形式どおりに書く「相続分の指定」「遺贈」「遺言執行者の指定」などとは違い、
- 家族への感謝
- 財産の分け方をそう決めた理由
- 今後の暮らしへの願い
- 葬儀やお墓に関する希望 など
を、あなたの言葉で自由に書くことができる部分です。
法律的な「強制力」はないけれど、とても大切な部分
ここが少しややこしいのですが、
- 付言は「法律上の義務」ではない
- 付言に書いた内容そのものには法的な強制力はない
という位置づけです。
ただし、だからといって「意味がない」「書いても無駄」というわけではなく、
むしろ相続トラブルを防ぐうえで、とても大きな役割を果たします。
なぜかというと、相続でもめる大きな原因の一つは、

なぜこんな分け方をしたのか、理由が分からない
という**“気持ちの部分のすれ違い”**だからです。
付言は、その「気持ちの部分」を、事前にきちんと伝えておくための、とても大切なスペースなのです。
付言事項に書ける内容の具体例
「自由に書いていい」と言われると、かえって迷ってしまいますよね。
ここでは、実務でもよく使われる具体的な内容をいくつか挙げてみます。
① 家族への感謝の気持ち
- 長年支えてくれた配偶者へのお礼
- 親の介護を頑張ってくれた子どもへの感謝
- 離れて暮らす子どもへのねぎらいの言葉
例:
「これまで家族として一緒に過ごしてくれて、本当にありがとう。皆のおかげで幸せな人生でした。」
② 財産の分け方にした「理由」
遺言書の中で「長男に多め」「配偶者に多め」などの指定をすると、何も説明がない場合、どうしても他の相続人はモヤモヤしがちです。
そこで付言で、たとえば次のように理由を伝えます。
例:
「長男には、自宅の土地建物を相続させることとしました。
将来、あなたがこの家を守り、皆が集まれる場所として残してほしいと考えたからです。」
こうした一言の説明があるだけで、受け止め方が大きく変わることがよくあります。
③ 葬儀・お墓・供養についての希望
- 葬儀は家族だけで静かに行ってほしい
- 菩提寺があれば、そのお寺さんにお願いしてほしい
- 派手な法要は望まない、など
※ここで注意したいのは、「命令」ではなくあくまで希望として伝える書き方にすることです(書き方は後ほど具体例を出します)。
④ 残された家族へのメッセージ・お願いごと
- 兄弟仲良くしてほしい
- 自分の財産をきっかけに争ってほしくない
- お互いを助け合って生きていってほしい
こうした親としての願いは、付言でやさしく伝えてあげると、残された方の支えになります。
付言に書かない方がいい内容・注意したいポイント

付言は自由に書けるとはいえ、何でも書いてよいわけではありません。
むしろ、書き方を間違えるとトラブルを呼び込んでしまうこともあるため注意が必要です。
① 誰かを強く責める内容
たとえば、
- ○○は親不孝者だから相続させない
- ××には長年恨みがある
といった感情をぶつけるだけの文章は、残された相続人の心を深く傷つけてしまいます。
法律的には「単なる気持ちの記載」に見えるとしても、
読む側にとっては、一生忘れられない言葉になってしまいかねません。
② 無理な約束や、法律に反するようなこと
例えば、
- この家を絶対に売ってはならない
- 必ず○○に養子に入ること
のように、相続人の自由な意思を縛るような内容を書くと、かえって心情的な反発を招き、トラブルの火種になります。
③ 遺言書の内容と矛盾すること
例えば、遺言本文では「不動産を長男に相続させる」としているのに、付言では
本当はみんなで仲良く分けてほしい
といったように、本文と逆のメッセージを書いてしまうと、
- 結局、遺言者が何を望んでいたのかが分からない
- 内容解釈を巡って争いになる
など、かえって混乱の原因になります。
よくあるトラブル例(こう書くと揉めやすい…)
実務の感覚として、「これは揉めやすい」という付言の書き方にはパターンがあります。
例1:感情的な「差別」や「優劣」を強調してしまう
長男は昔から頼りにならないので、ほとんど財産は与えません。次男だけが私の味方でした。
こうした書き方は、長男に強い不満や不信感を残します。
また、次男にとっても、読んで素直に喜べる内容とは言いにくいでしょう。
例2:「介護してくれなかったから」という書き方
私の介護をしてくれた長女に多く相続させ、ほとんど手伝わなかった長男には少なくしました。
お気持ちはよく分かるのですが、
長男側にも「できなかった事情」がある場合も多いものです(遠方で働いていた、病気だったなど)。
そのあたりに配慮なく書いてしまうと、相続人同士の感情的な対立を強めてしまうことがあります。
例3:あいまいで解釈が分かれる表現
家族で話し合って、うまくやってください。
財産はみんなで平等に分けてください。
一見やさしい表現ですが、財産の種類や状況によっては「平等に」が現実的ではなかったりします。
結果として、「平等ってどういうこと?」という揉め事に発展することも。
良い付言の書き方のコツ
では、どのように書けばよいのでしょうか。
ここでは、相続人の気持ちに配慮した「伝わりやすい書き方」のコツをご紹介します。
コツ① 相手を責めず、「自分の気持ち」から書く
「○○しなかったあなたが悪い」ではなく、
「こうしてくれてうれしかった」「こんな思いがあった」と、自分の気持ちを主語にして書くと、受け止められやすくなります。
コツ② 財産の分け方は「理由」を添えて説明する
なぜその人に多くしたのか、なぜその人に特定の財産を託したのかを、できるだけ具体的に・やわらかく説明してあげると良いです。
コツ③ 命令ではなく「お願い」「希望」という形にする
「〜しなければならない」ではなく、
「〜してくれたらうれしい」「〜してほしいと願っています」
と書くことで、受け取る側のプレッシャーは大きく変わります。
そのまま使える「付言」の文例集
ここからは、実際に遺言書に書きやすいように、文例をいくつかご紹介します。
もちろん、そのまま使っていただいても、アレンジしていただいても大丈夫です。
① 家族全体への感謝
「これまで家族として共に過ごしてくれて、本当にありがとう。
皆のおかげで、私は幸せな人生を送ることができました。
どうかこれからも、お互いを思いやりながら、助け合って生活していってください。」
② 財産の分け方の理由を説明する例
「長男○○には、自宅の土地建物を相続させることとしました。
これまで同居し、私の生活を支えてくれたことへの感謝の気持ちと、
将来もこの家を守り、皆が集まれる場所として残してほしいと考えたからです。
他の子どもたちには、別の形で感謝の気持ちを表したつもりですので、どうか理解してもらえると幸いです。」
③ 兄弟姉妹へのメッセージ
「相続のことで意見の違いが出ることもあるかもしれませんが、どうか、この遺言をきっかけに仲違いをすることだけは避けてほしいと願っています。
お互いの立場や事情を尊重しながら、冷静に話し合ってください。」
④ 葬儀・供養に関する希望
「葬儀は、形式にはこだわりません。
可能であれば、家族や親しい親族だけで静かに見送ってもらえるとうれしく思います。
ただし、皆の負担になりすぎないよう、無理のない範囲で行ってください。」
公正証書遺言でも「付言」はきちんと残せます
「付言は、公正証書遺言でも書けますか?」という質問もよくあります。
答えは 「はい、書けます」 です。
- 公証人に内容を伝えると、そのまま遺言書の中に記載してもらえる
- 原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配がない
- 家族が遺言を読むとき、付言も含めて公証人から読み上げられることが多い
つまり、公正証書遺言の中で、あなたの「想いの部分」もしっかり形に残せるということです。
自筆証書遺言と付言の相性
自筆証書遺言の場合も、もちろん付言を書くことができます。
- 全文を自書する必要がある(財産目録を除く)
- 付言も自筆で書いた方が、より「あなたらしさ」が伝わる
- 法務局の「自筆証書遺言保管制度」を利用する場合も、付言付きの遺言を預けることができます
ただ、自筆証書遺言は方式不備(書き方の間違い)で無効になってしまうリスクがあるため、
- 本文は法律の要件をしっかり守る
- 付言は「気持ち」を大切にしながら、本文と矛盾しないようにする
このバランスが大切です。
行政書士に相談するメリット

「自分だけで書くのは不安…」
「どこまで書いてよいのか、かえって揉めないか心配…」
そんなときは、専門家と一緒に考えてみるのもひとつの方法です。
行政書士に相談することで、たとえば次のようなサポートが可能です。
- 相続人・推定相続人の整理(誰が相続人になるのか)
- 遺留分(最低限の取り分)とのバランスを踏まえた遺言内容の助言
- 付言に書く内容が、本文や法律と矛盾していないかのチェック
- 家族の状況を伺いながら、トラブルになりにくい表現への言い換え
- 公正証書遺言にする場合、公証役場との事前打ち合わせや、必要書類の準備サポート
あなたの「本当の気持ち」を大切にしつつ、法律的な観点からも無理のない形に整えていくのが、行政書士の役割です。
行政書士に依頼する場合の流れ
事務所によって多少違いはありますが、よくある流れは次のようなイメージです。
- 現在のご家族構成やお悩みをお伺いします
- 「付言で何を伝えたいのか」をゆっくり整理していきます
- 戸籍等を確認し、誰が相続人になるのかを整理
- 遺留分の有無も含めて、トラブルになりそうなポイントを確認
- 印鑑登録や印鑑登録カードの有無も確認
- どの財産を誰にどのくらい渡すか、分けるか
- その理由や、家族へのメッセージをどのような言葉で伝えるか
- 行政書士が文章案を作成し、内容をご確認いただきます
- 表現を何度か調整しながら、「しっくりくる形」に整えます
- ここまできたら、印鑑登録証明書と実印を用意
実印は必ず必要ではありませんが、実印をおすすめします。
- 必要書類のご案内
- 予約や文案送付などのサポート
- 自筆の場合の保管方法
- 誰に遺言の存在を伝えておくかなども一緒に確認していきます。
まとめ:付言は「法律」だけでは埋められない部分をつなぐ大事な役割
最後に、ポイントを整理します。
- 付言事項(付言)は、遺言書の中で自由に書けるメッセージ部分
- 法律的な強制力はないものの、
相続トラブル防止・家族の心のケアという点で、とても大切な役割を持つ - 書き方次第で、争いを減らすことも、逆に増やしてしまうこともある
- 自分の気持ちを素直に伝えつつ、相手を責めない言葉選びが重要
- 不安がある場合は、行政書士など専門家と一緒に内容を練ると安心
「法律的なことも大事だけれど、家族にちゃんと気持ちを伝えたい」
そう思われたときには、どうぞ一度ご相談ください。
あなたの想いをしっかり伺いながら、“争いになりにくい、あたたかい遺言書” づくりをお手伝いしていきます。
ご相談はこちらから!
